音楽


クラシックCD感想


レコード会社の役割

レコード会社の役割は変わった。
初期のSPレコードでは短い小品を一曲収録するのが精一杯だった。
LP時代になっても「未完成」と「運命」のカップリングといった、一回の演奏会の再現といった趣きが強かった。
勢い、レコードのファンの関心も名曲の名演奏の追及に向かい、レコードの市場も演奏家主体となりがちであった。
しかし、CD時代となって録音時間が長時間化し、さらにCDの低価格化が進んだばかりか、楽曲のネット配信が始まり、録音メディアの録音容量も増大しi-podで楽曲が販売されるような例も出てきて、CD時代の終焉が語られるようになってきた。
こうした時代になっても、レコード会社が特定のアーチストの売出しにばかり関心が行っているとしたらもったいない。
複製芸術としてのレコードには演奏会では到底実現出来ないことが出来るはずなのである。
具体的には一人の作曲家の完全な、音楽学的な観点からの、音による全集を作ることである。
現状では一人の作曲家の全作品をCDで揃えるには相当の苦労がある。
例えば今、ドビュッシーの全作品を聴こうとしても、それほど作品数が多い訳でもないにもかかわらず容易ではない。
ヴェーバーの作品も極めてコレクションし難い。
異なったレコード会社から発売される複数の演奏家で揃えていくと、同じ曲を重複して買うことにもなり、必要以上のお金が掛かる。なおかつそれでも欠落する曲が出てしまう。
これまでも大手レコード会社からバッハやモーツァルト、ベートーヴェン、ブラームスなどの大全集が発売されたことはあったが、生誕*00年、没後*50年といった機会に特別に限定盤として発売されるものであった。
しかしそれを常時、基本的な品揃えとして発売して欲しいのである。
主要な作曲家についてはおおよそいつでも全集が入手できるようであって欲しい。
一人の指揮者による一人の作曲家の交響曲全集や、一人のピアニストによる一人の作曲家のピアノソナタ全集などはこれまでもあった。
ただ、交響曲も含めた管弦楽曲全集や、ピアノソナタも含めたピアノ曲全集という企画になると既に少なくなる。シューベルトの完全なピアノ曲全集というものは未だ存在しない。
総てのジャンルに渡る一人の作曲家の全集となると、それはレコード会社の仕事の範囲である。
これが、これからの時代のレコード会社の大きな役割である。

大作曲家については複数の全集があってもいい。
もちろん一人の作曲家の全集と言っても今日明日に出来上がる訳ではないことは当然である。
十年、二十年といった時間を掛けて、長期的なプランのもと、企画制作して欲しい。
世界には数えきれないほどのオーケストラがあり、星の数ほどのピアニストがいるのである。
その中には知名度がなくとも優れた演奏をする演奏家・団体は探せば少なくないであろう。

これまでの大手レーベルとは異なった方針で録音事業を続けている会社に香港のNaxosがある。
知名度の低い作曲家に至るまで、オリジナルの録音により録音を進めている。
主要な作曲家についてはマイナーな曲も録音を続けている。
クラシックのすべての曲を音で聞けるようにしようとするプロジェクトを進めているように見える。
また演奏は名前の売れた演奏家ではなく、自社で発掘した演奏家に録音させている。
販売もCDによるだけでなく、ネット配信もしている。
ただこのレーベルの場合はCDの一枚売りが主で、買い揃えるのが大変である。

Naxos / Naxos / Naxos

オランダのBrilliantは私の理想に近い、全集のセット売りを主としている。
自社での録音と、他のレーベルからライセンスを譲り受けて全集を構成している。
演奏は、演奏家の知名度からすると意外なほど優れていることが多い。
ステレオ録音の時代になってからでも50年を超える時間が経ち、秀れた演奏の録音が蓄積しているはずである。
そうしたものを集約していけば、かなりのものができるであろう。
私はドヴォルザークを多少低く見ていた。
しかしドヴォルザークのBrilliant社40枚組みセットを聴いてかなり考えが変わった。
ドヴォルザークは「新世界交響曲」や「弦楽四重奏曲アメリカ」など、知名度の高いものほど通俗的な要素がある。
しかし、このセットの弦楽四重奏曲を聴くと「アメリカ」で受けるものとはかなり異なる印象を持つ。
聴く我々も名曲中心から遁れ、その作曲家の総ての作品を聴いてからその作曲家について判断するべきである。
さらにハイドンの150枚セットには驚いた。
Brilliantに期待するところは大きい。

brilliant

Hanssler社 バッハ大全集−デジタル・バッハ・エディション(iPod 120GB)

Bisのシベリウス全集

Hyperionの歌曲全集シリーズ

Hungaroton社のバルトーク大全集

SUPRAPHONはスメタナ、ドヴォルザーク、ヤナーチェクなどの全集を作ってもいいはず。

メロディアはチャイコフスキー、ムソルグスキーの全集を作ってもいいはず。

イタリアには偉大な作曲家が何人もおり、それを演奏する秀れた演奏家にも事欠かなかった。しかしイタリアにはそうした企画をする秀れたレーベルが無かった。
Universal系のVerdi全集には感激したが、これはイタリアの会社ではない。
しかし、近年は事情が変わってきている。
Vivaldi、Frescobaldiなどでも、優れた企画が出てきたようだ。

フランスの作曲家のほうがむしろ全集に恵まれていない。
フランク、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル。
プーランクにそれに近いものがあったりする。

私がもっとも切望するのは、シェーンベルクの全集である。
シェーンベルクはこれまで新ウィーン学派という枠の中で取り上げられることが多すぎた。
もうそろそろこうした旧習からは脱却して欲しい。
そうこうするうち、ベルクとヴェーベルンの全集はできて、シェーンベルクだけが取り残されてしまった。

2011/8/30


古楽器(時代楽器)による演奏が勃興してから既に一時代経ち、時代楽器による演奏家や演奏団体は音楽の世界に完全に定着した。
この間、現代楽器による演奏との美学的な論争のようなものがあった訳だが、そうしたことよりも私にとって意義が深いことは別にある。
現代楽器による演奏家たちは、古楽の領域を自分のレパートリーとして十分拡げてこなかった。
それに対して、時代楽器による演奏家たちは古楽が自分の主領域であることから、これまでほとんど演奏されてこなかった曲や、看過されていた作曲家たちを積極的に取り上げるようになった。
その恩恵を受けた作曲家に例えばヘンデルがいる。一昔前までは、オラトリオで演奏されるのはほぼ『メサイア』のみ、オペラは全く無視されていると言ってよかった。
ヘンデルはバッハと並ぶ作曲家とされていても、その実質は少なくとも私はよく分かっていなかった。
それが最近、『メサイア』以外のオラトリオを耳にできるようになり、その美しさに魅惑されている。こんな素晴らしい音楽がこれまで音楽演奏の世界で十分尊重されていなかったとは。
これに類する例は他にいくつも挙げられよう。時代楽器隆盛の最も重要な成果を私はここに見出すのである。
2008/3/24


HMVのサイトでCDを買うということ。

私がクラシックを聴くようになったのは高校生の頃で1980年代初めであった。
当時は町のレコード屋で国内盤を買うのが普通であった。国内盤は再販制に守られた定価販売で、個々の店が出すサービス券を集めて一割引にしてもらうのがせいぜいであった。
レコードは店に置いてあるものを買う他、音楽之友社の「作曲家別クラシックレコード総目録」という国内盤の総カタログにあるものから店に注文を出すこともしていた。毎年新版が発売される「作曲家別」の他に「演奏家別クラシックレコード総目録」というものもあり、後者は自分が人から譲り受けた1982年版の後は新版は1990年に出たのみのようである(未確認)。
輸入盤は国内盤よりも通常安く、レアな曲目も手に入ったので、秋葉原の石丸電気や銀座の山野楽器、稀に六本木のwaveで買うことがあった。これは店に置いてあるものを買うだけである。輸入盤にもドイツの有名なBielefelderやフランスのDiapasonといった総カタログはあり、レコード屋にあったBielefelderを買い求めもしたが眺めただけで、そこから注文を出してレコードを買った記憶はない。国内盤は大学の生協で注文を出して買えば大学に行ったついでなので苦労はないが、注文を出すのに一回、受け取るのにまた一回と秋葉原や銀座に出かけて行く余裕はさすがになかった。
大学の生協では、組合員は確か本は一割引、CDは二割引で買えた記憶がある。またいつの頃からか、輸入盤も多少棚に並んでいたように覚えている。
大学院に入ってからは音楽ばかり聴いていてはという気持ちからCDを買うペースは落ち、就職して千葉に住むようになってからは二割引で買える特典を失ったためか、店に行くことも殆どなくなった。
(その後、一時期ポピュラー音楽に狂ったのだが、その時は中古CDを中心に購入し、利用した店は町の古本屋やBookOff、津田沼や御茶ノ水、新宿のDiscUnionなどであった。)
ところが昨年の夏、ある人と飲んで話した時にリヒテルの素晴らしさを説かれ、ハンマークラヴィーアを薦められたため久しぶりに秋葉原の石丸電気に出掛けたが、そこで欲しい物を見つけることが出来ないという体験をした。これがきっかけでHMV(his master's voice)のサイトで初めてCDを買うこととなった。
HMVのサイトでCDを買うということは、私のレコード購入の歴史において画期的なことであった。
まずカタログというものが基本的に不要になった。店の棚に相当するサイト自体がそのままカタログ、しかも絶えず最新の情報に更新され続けるカタログなのである。
店にある品物を買うのと注文して買うことの別も消滅した。HMVの倉庫にある品物とレコード会社にある品物の違いは配送までに要する時間の差でしかなく、買うということは全て注文を出すということなのである。
また国内盤と輸入盤の区別が購入の段階においては価格の差だけとなった。リアルの世界では輸入盤を置いてある店は限られ、石丸電気や山野楽器など置いてある店でも棚は今でも別になっているが、HMVのサイトではそうした区分けはない。
本やCDのような多品目少量販売の商品ではインターネットでの販売の優位性が特に活きてくるものだが、実際にクラシックのCDを購入する者にとって、どんなマイナーな曲であろうと、どんな無名な演奏家であろうと、HMV社と取引がある世界中のあらゆるレーベルの在庫品の全てから選ぶことが出来、どの曲をどの演奏で買うか、じっくり比較検討してから決めることが出来るということは、この上なく好都合なことである。
これを可能にしたのは世の中の各方面に革命的変化をもたらしたパソコンとインターネットの普及のおかげであるが、更に言えば電話回線でインターネットをしていたナローバンドの時代では時間が掛かり過ぎて多品目間の比較などしていられなかったろうから、ブロードバンドの普及もインターネットでCDを買うための条件を向上させた立役者であろう。
それからこの文のタイトルでまでHMVと明記してあるのには理由があって、CDを販売しているサイトは他にも勿論あるのだが、一人の作曲家に多ジャンル複数の曲目があり、かつ又それぞれの曲に歴史的なものまで数多くの演奏が揃うというクラシックの特性を考慮して設計されたサイトは私は他に知らない。tower.jpなど全く使い物にならない。私は本・古本、DVDはamazonで買うが、CDは買ったことがない。
ついでに書くと、他にここ数ヶ月の私のクラシックCD購入を加速させている要因として、私がCDを買わずにいた間に進んだ驚くべきCDのデフレが挙げられる。数十枚のセット物では、一枚あたり150円を切るものも現れ、書き込み用生CDの価格に限りなく接近し、極限的な低価格が実現しているのである。
このようにして、これまで未聴のままで来たあの曲この曲を聴くことが次々と実現していっている。
しかしあまりに買い過ぎて、聴く時間の方がとうてい追い付かない。幸せにも別の、そしていつもと同じ限界があった。

2008/2/6


新国立劇場オペラ部門の次の芸術監督に就任が予定されているトーマス・ノボラツスキー氏と、藤原歌劇団や二期会など既存の国内オペラ団体との対立が続いている。
新聞報道で知る限り対立の焦点は、ノボラツスキー氏がこれまでのダブル・キャスト制を廃止し、シングル・キャスト制に移行する方針を示したことにあるようだ。
一役に外国人一人、日本人一人の二人の歌手を割り当てていく、いわば水増し方式を終わらせて上演の水準を上げたい新監督に対して、日本人の出演の場を確保したい国内団体が抵抗しているという構図であろう。
Jリーグのサッカーチームでも戦力強化のために外国人選手を使えば、そのポジションの日本人の成長の機会は奪われる。 これは解消しようのないジレンマである。
それでもJリーグの場合はJ1に16チーム、更にJ2もあり日本人もそこで力をつけていくことも出来るが、オペラの場合はいわば国内に一チームしかないに等しい。
欧米では人口が十万を超えるほどの都市であれば、規模に応じた劇場を持っているものである。若手は小さな劇場を足掛かりに 自分のキャリアを築き、いずれは大歌劇場への出演を目指す。
欧米の文化であるオペラの専用劇場が日本にどの位の数あるべきかは議論もあろうが、海外著名歌劇場の引っ越し公演が相次ぎ、各地に市民オペラの活動がある人口一億二千五百万の国に、公設の歌劇場が一つしかないというのは文化行政としてあまりに寂しい。
日本人歌手が海外の歌劇場に多数進出し、その分その国の若手の出番を減らしていることを考えれば、日本が歌劇場という文化施設を これまで創ってこなかった怠惰は指弾されなくてはならない。
まずは西日本に第二の国立歌劇場を設立することが課題であろう。
2003/08/17


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