2005年8月27日(土)

清水真哉

京都での自転車に関する講演

「ドイツ社会自転車化の原動力『ADFC』の活動に学ぶ」

話の構成

1) 自分の経歴

2) 交通手段のなかの自転車の位置付け 自転車交通を推進する理由

3) ヨーロッパの交通市民団体の趨勢

4) VCDの話

5) ADFCの話

6) 自転車観光

7) 自転車道の話

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1) 自分の経歴

本日はお招き頂きまして、皆様には大変感謝いたしております。

私は先月末、生まれて初めて自分のお金で自転車を買ったんです。自転車フリークというものからはまるで遠い存在です。
その自転車はアルミフレームのクロスバイク風軽量車で、ママチャリ並みの価格でゲットしました。
それ以来喜んで自転車を走らせているのですが、私の住んでいる東京都江東区が、実は大変先進的な自転車道の町だっんです。江東区はもともと江戸時代に掘られた水路の町なのですが、自転車道は主としてその水路沿いに造られています。
例えば私は、江東区亀戸の自宅の近くにある自転車道の入口から入ってしまうと、東陽町にある江東区役所近くの出口まで一度も自動車用道路と平面交差することなく走ることが出来ます。道路と交差するところでは地下道が掘られているのです。 川が交わるところではクローバー橋という、自転車と歩行者のための橋が架かっています。
さながら自転車ハイウェイです。
これらの施設は、ドイツの自転車の町と呼ばれるところの自転車道を見てきた目からしても評価に値します。
機会がありましたら、是非一度いらして下さい。

私は今日、ドイツの交通NGOの一つである一般ドイツ自転車クラブについて、お話するようにご依頼を受けた訳ですが、私は本来は交通問題の専門家ではありません。
私の経歴ですが、私は、そもそもはドイツ文学や哲学を専攻していましたが、時代の趨勢といいますか、いつしか、徐々に環境問題に関心を持つに至りました。
当初は原発や干潟などの自然保護など、様々な問題に関心を持って手を出していたのですが、その中でも、自動車事故という深刻な人権侵害の問題もからむ上、大気汚染、騒音、シュレッダー廃棄物など、環境問題の総本山とも言うべき、交通の問題に取り組むようになっていったのです。
当初はドイツという自分のフィールドを活かして、向こうの状況を調べていくうちに、ドイツ交通クラブ、それから本日お話させて頂くADFCなどの、交通分野の市民団体があることを知り、これは私には大変な驚きでした。
私が属している「クルマ社会を問い直す会」や「全国鉄道利用者会議」などの団体と比べて、会員数の多さ、全国組織であること、活動内容の強固さ、ヨーロッパの市民力、とでもいうべきものに目を見張ったのです。
そこでそれらの団体について調べ、学会で発表したり、論文に纏めたり致しました。
ところがこうして交通分野の市民団体について調べていくうちに、交通という分野そのものへの関心が自分の中で深くなっていったのです。
その切っ掛けになったのが、ハンブルクでの体験でした。
私は1990年から1992年に掛けて、大学に通うためにハンブルクに居住していました。
その後、今から六年ほど前に、再びハンブルクに行く機会があり、ハンブルク大学の周りを歩いたのですが、ここで忘れられない体験をしたのです。それまで、極く普通の二車線の道路だった大学前の道が、自動車が通行できない道に変えられていたのです。(写真)
それでその二年後、今から四年前になりますが、ハンブルクにこの問題を調べに行って分かったことは、そこはハンブルク市が計画的に建設している自転車ルートの一部だったのです。
また三年前には、ドイツの前代の自転車首都エアランゲン市と現在の自転車首都ミュンスター市に行って自転車道の状況や政策について調べてきました。
ただ折角調べておきながら、私の力不足で、その結果をうまく纏めて公表するところまでいけていないのですが、この問題についても本日いただいた時間の一部を使わせて頂いてお話させて頂ければと、予定しております。
こうした調査活動の一方で、日本国内の問題として、今年の春に岐阜や能登で相次いだ、各地の鉄道の廃線の動きを阻止する運動、あるいは新型路面電車LRTを導入する運動などに取り組んだり、さらには、公共交通を成り立たせる町づくりはいかにあるべきか、といったテーマを考えたりしております。

2) 交通手段のなかの自転車の位置付け
自転車交通を推進する理由

私たちはこれから、日本という国において自転車交通を推進していこうとして、こうして集まっているのだと思いますが、私たちはまず、なぜそもそも自転車を推進するのか、という問題を一度考えておく必要があるのではないでしょうか。
事、自転車に関して今、地方自治体の職員の頭の中は九割方、いわゆる駅の放置自転車の事で一杯であると申してよろしいかと思います。
そして不幸なことに、結果として、自転車を否定的に捉え、排除する方向に向かっています。自転車が社会から、今よりもっと肯定的に受け入れられるためには駅前駐輪の問題を、考え直す必要があります。
違法駐輪はマナー、良心の問題などと言う人がいますが、自治体職員はひとびとがなぜ自転車で駅に来るのかという問題を考えたことがあるのだろうかと疑問に思います。
実は私も高校、大学、大学院時代、自転車通学でした。私の実家は埼玉県吉川市にあり、自宅から駅まで徒歩で4,50分、バスで12分ほど掛かります。ところがこのバスは、昼間は本数が少なく、帰りもダイヤが不規則で、終バスも十時台でした。いつでもタクシーに乗れるお金に余裕のある人ならばともかく、これでは帰りが遅くなる人は、行く時からバスを諦め、自転車で行かざるを得ません。
このような、自転車がfeeder交通を担わされているという状況は出来る限り解消する必要があります。
ハンブルクにはNachtbus夜間運行バスがありました。夜中になると、路線は間引かれ、本数も一時間に一本になりますが、それでも帰宅の足が保障されていました。
24時間とは言いませんが、少なくとも終電までのバス便を保障しない限り、タクシー代を払いたくない人は自転車に乗ります。 またバスが渋滞に巻き込まれ、年中、遅れていては、人はやはり自転車に向かうでしょう。
朝7:30から9:30までのバスレーンなど欺瞞でしかありません。
私はハンブルクで24時間のバスレーンを体験していますが、片側二車線の道路の一車線は完全バスレーンで、渋滞するもう一車線の自家用車を尻目に、バスは快適に走って行きました。
私は当然、自転車交通を推進する立場ですが、公共交通機関が不便であるために仕方なしに自転車に乗るという状況は、可能な限りなくしていかなくてはなりません。
自転車も自家用車と同様、私的な交通手段である以上、駐車の問題は避けられません。駐輪の問題を解決するには公共交通機関の充実が不可避なのです。
自転車と公共交通機関ということで言いますと、自転車よりも公共交通が優先されなくてはなりません。なぜなら老人や、障害のある人、病気の人など、自転車には乗れない人もいる、つまり自転車は移動する権利としての交通権を保障するものではないからです。この点は認めなくてはなりません。
また自転車乗りも雨の日には電車やバスに乗りたいでしょう。
自動車や自転車という私的交通手段を利用しなくても移動可能な交通体系を築かなくてはならないのです。
今は、必ずしも自転車に乗りたいわけではない人が自転車に乗り、自転車に乗りたい人が乗れずにいるというゆがんだ状況があります。
私は三年前、自転車の町ミュンスターと路面電車で名高いカールスルーエに行って来ました。この時気が付いたのですが、ミュンスターの人口規模はおよそ28万人、ドイツの都市の路面電車がない町の中で最も人口の多い町、本来、路面電車があって良さそうな町なのです。私はなぜ、ミュンスターに路面電車がないのだろうという問題を考えた末に一つの事実に行き当たりました。ミュンスターは人口密度がカールスルーエの半分位しかないのです。ミュンスターは低密度な町で、公共交通が成り立ち難いために、やむをえずの自転車という側面があるのだと思います。またミュンスターはドイツで三番目に学生数の多い大学のある町で、若くて元気ですから自転車に乗り、公共交通に乗ってくれないという面もあると思います。土地が平坦ということも自転車には有利でしょう。ミュンスター市はこうした都市の条件を考慮し、自転車に比重を置くことにしたのでしょう。

なぜ自転車なのかという問題に戻りますが、どんなに公共交通の充実に努めても、最後には必ず、私的交通手段が求められる局面は残ります。
それは自動車と自転車で担われている訳ですが、その自動車で担われている部分を少しでも自転車に置き換える努力をしていくこと、公共交通機関からではなく、自動車からの乗換えを進める必要があります。
なぜなら、駐輪の問題があるとはいえ、自動車と比べると都市内の空間を無駄に占有しません。事故の危険は小さく、排ガスや騒音などの公害もなく、エネルギーは浪費せず、かつ自転車をこぐことは人々の健康を促進します。
クルマからの乗り換えにこそ、自転車推進の意義は見出されるべきです。
近距離だけでなく中距離の需要にも自転車を用いるべきです。
なぜクルマは速いのでしょうか。それはエンジンが付いているからというだけではありません。専用の車線が確保され、走りやすく優遇されているからです。自転車の走行空間が確保されれば、今よりも遠距離の需要に対しても自転車が利用されるようになるでしょう。 長距離の需要についても可能性はあります。レンタサイクルの整備を進めたり、公共交通機関への自転車の持ち込みをもっと促進すれば、クルマを止めて自転車に乗るという選択肢を用意できます。
駅前駐輪の問題についても、列車に自転車を持ち込めないから駅前に停めるしかないのです。列車に自転車を持ち込めれば、自転車は最終目的地に停めることになります。
置き換えるべき対象はクルマばかりではありません。現在、オートバイによって満たされている交通需要についても、もっと自転車で置き換えられるべきです。自動二輪の環境負荷は排ガス、騒音など、四輪にも劣りません。
そして私的な利用だけではなく、業務用として、あるいは荷物運搬用としても、自転車にはまだまだ自動車を置き換える可能性があります。荷物運搬用の自転車、二人乗り専用自転車、子供を安全に乗せられる自転車などなど、様々な車両の開発が求められます。
趣味としての利用についてもそうです。ドライブする代わりに自転車ツアーを楽しむ人がもっと増えるべきです。しかし自転車だけでは行動範囲に限りがあります。家の近所ばかりを走っていても飽きるでしょう。ゆえに鉄道への自転車の持ち込みは極めて重要なのです。 私はドイツの本屋さんで、大変驚いたことがあります。ドイツやヨーロッパばかりでなく、オーストラリアや中南米に至るまで、世界中の自転車マップがたくさん売られているのです。それだけ自転車旅行の世界が広がっているのでしょう。私が訪問したミュンスターのADFCの専従職員の方も、休みになったらニュージーランドに自転車に乗りに行くと行っていました。自転車は飛行機で運んでもらうそうです。
公共交通と自転車のあるべき役割分担についてお話させて頂きましたが、ドイツにはUmweltverbund「環境連合」という言葉があります。鉄道を主とした公共交通、徒歩、自転車などの環境に良い交通手段の組み合わせのことを指しています。これらの組み合わせにより、自動車の分担比率の低減を実現することが、交通政策の目標であります。
昨年、アムステルダムに行ったのですが、ここは路面電車や地下鉄も充実し、かつ自転車道も整備された、大変バランスのとれた交通政策が実現している都市と思いました。
京都についても路面電車の再導入を検討している団体がありますね。真剣に取り組まれるべき課題と思います。交通需要に対して、自転車推進ばかりで対応しますと、いずれ駐輪の問題の壁にぶつかるでしょう。路面電車で行けるならそちらの方が良いという方には、路面電車という選択肢を用意した方が、純粋に自転車を楽しみたいという層にとっても望ましいことと思います。
いずれにせよ公共交通機関の整備と自転車走行環境の改善を平行して行うことが大事と思います。公共交通と自転車、京都にとってのベストミックスを探して頂くことを望みます。

3) ヨーロッパの交通市民団体の趨勢

ドイツ、ヨーロッパには、交通に関するあらゆるジャンルの市民団体が揃っているかのようです。
ドイツには自転車の問題に限っても、本日取り上げるADFCの他に、「緑のサイクリスト」という団体があるようです。http://www.gruene-radler-berlin.de/index1.htm
「FUSS e.V. Fussgangerschutzverein」など歩行者の権利を擁護する団体というものがあります。
日本にも「全国交通事故遺族の会」という団体があって活動していますが、ヨーロッパにも類似の団体があります。遺族ではなく、障害を負った当人たちの団体もあります。
公共交通では、鉄道利用者の団体「ProBahn」や「鉄道利用者同盟Bahnkunden-Verband」があります。
騒音の問題に特化した団体、航空機の騒音の問題、空港建設に反対する団体があります。
他にカーフリーデーや、カーシェアリングの団体もあります。
また交通の問題を全般的に取り扱うという総合的な団体もあります。
このようなヨーロッパ各国にある団体のヨーロッパ全体での連絡団体も組織されています。
これはEUにおいて政治の統合が進んでいる事に合わせて、主としてブリュッセルでのロビー活動をすることが目的です。
交通の問題を全般的に取り扱う団体の連合体としてT&E(Transport & Environment「交通と環境」)があります。
また自転車の団体のヨーロッパでの連合体としてECF(European Cyclist Federation「ヨーロッパ自転車連盟」)があります。日本からも 財団法人 自転車産業振興協会が正式メンバーではありませんが、賛助会員となっているようです。

日本には自動車社会の問題を取り扱う「クルマ社会を問い直す会」や鉄道を中心とした公共交通の問題に取り組む「全国鉄道利用者会議」といった団体があり、諸外国の団体と比べて小規模ながらも活動しておりますが、自転車に関するプロパーの団体は存在していないので、京都での動きには私としては大変、期待しております。

4) VCDの話

今、挙げていった諸団体の中で、交通の問題を全般的に取り扱う団体である「ドイツ交通クラブ(VCD)」について簡単ながら紹介させて頂きたく思います。
その理由は「ドイツ交通クラブ(VCD)」が、ADFCに劣らず、自転車交通のために貢献しているからです。交通の問題を体系的に扱う中で、自転車を位置づけるという点に意義があると思います。
ドイツ交通クラブは1986年の創立ですが、創立時から、「緑の党」や有力環境保護団体の支援を得ています。
ドイツ交通クラブ(VCD)は、日本でいえばJAFにあたるような自動車に対するサービスをしています。ドイツではADACがそれに相当しますが、VCDは交通事故や環境の問題を意識したドライバーのためのサービス機関を目指しています。
ドイツ連邦の16州すべてに州組織があり、主要な都市にはまた地域組織があります。

VCDの活動を箇条書き的に挙げさせて頂きます。 @ 保険・サーヴィス事業
JAFが行っているような自動車走行中のパンク修理サーヴィスをしているが、同様のサーヴィスを自転車で旅行をしている人に対しても行っている。また自動車保険、旅行保険のような保険事業も行っているとのことです。
A カーシェアリングの事業を行っています。
B 月刊誌fairkehrやブックレットなどの出版活動を行っています。
C 委嘱研究:研究の委嘱先、研究のパートナーは様々であるが、例えばoko-Institut (Institut fur angewandte okologie e.V.)。テーマも無論多岐にわたるが、例えば「子供と交通」「環境に配慮した交通体系によって創造される新たな労働市場」。
D 自動車環境ランキング(Auto-Umweltliste)。自動車の燃費、排ガス、騒音、また生産段階での環境への負荷といったポイントを評価。
E 3リットルカーキャンペーン。100キロ走るのに必要なガソリンの量を3リットルにまで引き下げようという主旨。
F 航空交通への取り組み。日本では航空交通の増大に対する問題意識がほとんど見られないが、VCDは航空交通への補助金の削減、灯油税の導入などを要求している。
G テンポ30の普及。市内の道路の制限速度を標準で時速30キロとするという要求は、現在の連立政権下でかなり実現してきました。

5) ADFCの話

さていよいよ本日のお話のメインとなるはずのADFCの話しに入りますが、私はADFCについては文章を書いて発表して、自分のHPに掲載し、本日もそれが切っ掛けで私にお声を掛けて頂いたのだと思いますが、分量もそれなりにあり、HPに掲載してあるということもあり、その内容を繰り返すのではなく、五年ほど前に書いたものなので、情報として更新されている部分、これから京都を中心に日本でも新しい自転車の団体を立ち上げて行くにあたり、運営の参考になる事柄という二点を意識しながら話題を選択させて頂きました。
 まず会の正式名称ですが、「社団法人・一般ドイツ自転車クラブ」(Allgemeiner Deutscher Fahrrad-Club e. V.)となります。 日本にはJAFというものがありますが、ドイツでJAFに相当するものがADAC(Allgemeiner Deutscher Automobil-Club)です。ADFCという名称は明らかにそれをもじったものですが、活動内容もADACをなぞったようなところがあります。
訳語についてですが、allgemeinの部分が問題で、この語を通常「一般」と訳すので一般としていますが、日本語の語感では何を言っているか分からないと思います。この語は英語のcommonと同じで、「誰にでも開かれている」という意味を持っています。自転車ツーキニストの疋田智さんの著書では「全ドイツ自転車クラブ」となっていました。この「全」を「全てのドイツ人のための」と理解すれば、それも良いかもしれません。あるいは「誰にでも開かれている」のを当然のこととすれば、あえて日本語にしないで、単に「ドイツ自転車クラブ」としておく手もあるかなと思っています。

@ ADFCの成り立ち

1979年の設立ですから、今年で創立26年になるということです。
創立者はヤン・テッベ氏。ヤン・テッベ氏がブレーメン出身であるため、本部は今でもブレーメンにあります。
創立時のエピソードとしては、「BUNDドイツ環境自然保護連盟」の支援があったということ、既に体系的な自転車促進政策を採り始めていたエアランゲン市の市長ディートマール・ハールヴェーク氏も関与していたことなどが挙げられます。

AADFCの組織

ADFCの最高決議機関は連邦総会(Bundeshauptversammlung)であり、ここには各州の支部が会員数に応じて二名以上の代表を送ります。
中央委員会(Hauptausschus)は、連邦総会に次ぐ決議機関で、各州の支部が一名ずつ代表を送る他、連邦理事会の成員が属しているとのことです。
連邦理事会(Bundesvorstand)は、ADFCの執行機関です。
次に地方組織ですが、旧東地域を含めた16州全てに州支部を置いており、更に郡レベルや市町村レベルの地方支部の総数は400に昇ります。
全国で会員数11万人。3000から4000人の活動家(ツアーのリーダーとなったり、旅行の相談に乗ったりする)がいるそうです。
ブレーメンの本部は10部屋以上あり、そこでは20人以上が働いています。
ちなみにミュンスターでは専従職員が一人いました。

BADFCの運営のあり方(どのように資金繰りがされているかなど)

基本的には会員からの会費収入がベースと思われます。
一人あたり年4000円として11万人ですから4億4000万円は会費収入があると見込まれます。
またここは保険事業や物品の販売なども行って収益をあげている訳です。
さらに、運営上の工夫としてErlangen支部で聞いた話では、この支部では市の建物の一部を事務所として安く借りている。本部も設立当初はブレーメン市から借りていたらしいです。日本でも、行政が、NPO支援の一環として、自治体所有の使われなくなった建物の一室を安く貸し出すという例はあるようなので、同じようなことだと思います。
またやはりErlangen支部で聞いた話ですが、交通調査などを行政から請け負い、その報酬を資金としているとのことでした。これもErlangen市からすれば、NPO支援の一環なのかも知れません。
他に活動ごとにスポンサーを得るということもあるようです。これについてはまた後で触れます。
さて会の財政基盤を強くするには何より会員数を増やすことですが、会員数を増やすには、日常の交通手段としての自転車の地位の向上が重要ですが、まず自転車を楽しむ人口自体をいかにふやすかという発想が必要かと思います。
趣味として自転車を楽しむ人の層の厚さが運営の支えになってくるのではないでしょうか。
そして会が勢力を増せば、自転車の走行環境が良くなり、すると趣味として自転車を楽しむ人が増え、さらに会員が増えるという、良い循環が期待出来ます。
趣味の部分に目を向けると、日本の場合、競技スポーツとしての自転車が室内やリンクに偏っています。
自転車ロードレースを盛んにすることが、自転車団体を強くすること、ひいては自転車走行環境の改善につながると思います。近頃は、ツールド能登、ツールド北海道などもあるようですが。
私はドイツの自転車の町として知られるミュンスターにいたとき、オランダのやはり自転車の町として知られるフローニンゲンからミュンスターへのプロのロードレースのゴールを体験することができました。その表彰式にはミュンスター市の市長も出てきて、挨拶していました。非常に印象的な体験でした。数ばかりは多いが、隅に置かれる日本と違い、ドイツという国での、自転車の地位の高さを感じました。

また自転車の地位を高めるためには、地位のある人が乗るということが大事かと思います。地位のある人は黒塗りのリムジンで登場しなくてはならないというイメージがありますが、ミュンスター以前のドイツの自転車首都であったErlangen市の市長の例ですが、この市長ディートマール・ハールヴェーク氏はADFCの創立にも関わった人物です。エアランゲン市はオーストリアのザルツブルク市と姉妹都市なのですが、ザルツブルクで式典があった時、市長はザルツブルクまで自転車で出掛けたのです。エアランゲンからザルツブルクまで直線距離で200kmはゆうにあります。しかもザルツブルクはアルプスに近く、標高がそれなりにあるはずです。
市長のこうした行動が、自転車のステータスを高めたのでしょう。

CADFCの行政・自治体とのかかわり

ADFCは政治的には中立です。しかしADFCの会員には党派を問わず25人もの国会議員がいるそうです。
また議員に対する政策のレクチャーなどもしているそうです。
1998年以来、社民党と緑の党の連立政権ですが、交通、自転車政策の改善に「緑の党」が果たした役割は小さくありません。ADFCの総会に社民党の交通大臣が来たこともありました。
この政権の間に、自転車に関する政策は大きく進みました。
大きな成果は、市街地での制限速度を時速30kmとする「テンポ30」の指定区間が大きく広がったことです。これは自転車にとっても非常に大きい事なのです。
オランダの名高い「自転車マスタープラン」に倣った「国家自転車交通計画2002 - 2012(Nationaler Radverkehrsplan 2002 - 2012)」を制定したことも大きな成果です。
http://www.nationaler-radverkehrsplan.de/
また通勤手当を改革し、徒歩や自転車で通勤する人にメリットの大きい、「Entfernungspauschale(通勤控除距離一括)」という制度が導入されました。これは交通手段に関わらず、職場からの距離に応じた額を税から控除するというものです。野党は今でもこれに反対しています。
これらの政策は、日本でも実現を目指すべきでしょう。

地域の各支部の単位では、支部の政策担当者が、自治体内の自転車あるいは交通に関する委員会に入っているというのは全く普通のことです。

Dサービス内容

ADFCのサービス内容について、会員が支払った会費に対してどのようなサービスが提供されるかという角度から見てみましょう。
まず年会費ですが、個人会員は38 Euro (学割 25 Euro)で、家族会員は48 Euro (学割 38 Euro)です。

対価としてのサービス内容
入会時に「ディスカバー・ドイツ」という冊子。
年一回「自転車旅行」という冊子。
会報RadWelt(隔月)(発行部数は6万4千部。内容は、世界の交通事情、交通政策に関わる記事の他、各地の観光情報、自転車旅行者向けの旅行情報)
地域支部の会報(?)
保険(自転車走行中、公共交通の利用中、歩行中の賠償義務保険200万ユーロまで、過失のある場合は150万ユーロまで。および権利保護保険)(有限会社P&P Pergande & Pothe社との提携により運営)
ツアーや自転車修理講習など会の企画への無料、あるいは割引での参加。
(毎年、245000人もの人が、ADFCが主催する自転車ツアーに参加しています。)
盗難予防のための自転車のナンバリング
自転車盗難保険加入の際の割引
旅行計画のプランニングなど自転車に関するあらゆる問題についての窓口での相談
ヨーロッパ他国の提携団体での類似のサービスを受ける権利

E活動内容

自転車ステーションの運営。
ADFCは、各都市、各駅の自転車ステーション(貸し自転車業、自転車修理などのサーヴィス機能を兼ね備えた駐輪場)の運営に協力しています。特にフライブルクの自転車ステーションでは、ドイツ交通クラブ、カーシェアリング、プロ・バーン(鉄道旅客団体)等の交通NGOと共に、共同で有限会社を設立して、その運営に参加しています。

AOKという健康保険会社(ドイツの健康保険は民間会社により運営されている)と提携して「自転車で通勤しよう」というキャンペーンをしています。

研究活動
ADFCは、ECF(European Cyclists' Federation)と共同で、自転車および交通問題一般に関する研究事業、あるいは世界各地の各種研究機関・研究者への研究委嘱事業(Der Forschungsdienst Fahrrad des ADFC)を行なっています。

出版・広報活動
「事実、論点、要求」(Fakten...Argumente...Forderungen...)、「道路交通規則」(StVO)、といった世論形成のための冊子や、啓蒙用のパンフレット類も制作・配布しています。
こうした啓発活動には、ドイツ交通省からの補助を受けているとのことです。

消費者団体としての活動
二年毎に自転車の品評会「ADFC-今年の自転車」を開催しており、自転車の技術水準を高めることに寄与しています。

6) 自転車観光

ADFCでは、自転車による観光、自転車ツーリズムに大変力を入れております。
自転車観光についてADFCが求めていることが、「自転車観光促進のための手引き(Handreichung zur Forderung des Fahrradtourismus)」という連邦環境局の支援により作製された冊子に書かれています。
ここには、自転車道はどう整備されなくてはならないか、道路標識はどうでなくてはならないか、その他、自転車地図、駐輪施設、公共交通への持ち込み、飲食店やホテルなどの休憩施設、などについて事細かに、自転車乗りたちの要望が書かれています。

自転車道地図の作成と販売
ADFCは、ドイツ全土の自転車道の地図を作成しています。ドイツ全土の長距離自転車道を一枚に載せた地図の他に、各支部でそれぞれの地方の自転車道の地図を編纂しています。
またヨーロッパ諸国の自転車道の地図も、そのドイツ語版の販売を行なっています。
またドイツ全域13地域と、ヨーロッパ21カ国の計33種の旅行情報パンフレットを、自転車タイヤ会社の支援で作成・配布しています。

「Deutschland per Rad entdecken - Die schonsten Routen auf einen Blick(自転車でドイツを再発見しよう−景観の優れたルート一覧)」というかつての国鉄のディスカバー・ジャパンを思い出させるようなタイトルのキャンペーンでネッスル社というスポンサーを得て
、ネッスル社のコーンフレークの商品のパッケージで宣伝させてもらっています。

ガイドつきの自転車ツアーの実施

鉄道会社との提携
ADFCでは公共交通と自転車の連携の強化に努めています。
1989年以降、近郊電車への自転車の無制限の持込が実現しました。さらに全てのInterRegio、90本のInterCityへの持ち込みが可能になりました。
さらにはInterCityExpressへの持ち込みも可能になるよう、ドイツ鉄道と交渉中ですが、あまり上手く行っていないようです。

ベット&バイク(Bett & Bike)という試みも行なわれている。それは、自転車旅行者にとって好都合なサーヴィスの基準を満たしたホテル、ペンション、ユースホステル、キャンプ場などの一覧を冊子にして出版するというものである。その基準とは、自転車の盗難防止の設備、自転車修理道具の貸与、衣類の乾燥施設などである。
Bett & Bikeにはドイツで3500もの宿泊施設が参加しています。

ここでNRW州における観光自転車道と、その道路標示に関する取り組みについて、一つ紹介させて下さい。
それは「蜂の巣システムWabensystem」と呼ばれています。
図のような形に自転車道が整備されており、道が交差するところでは、どの方面へも行けるよう、分かり易い標識が立てられています。
私はここは実際に自転車で走ってみましたが、適切な地図と組み合わせて見ると、大変分かりやすかったです。 実に独創的な試みと思いました。

7) 自転車道の話

今後、日本の自転車利用促進のために最も重要となってくるのは、何と言っても自転車道の整備だと思います。
そのためにドイツでの自転車道の整備について少しお話させて頂ければと思います。
ドイツでも私が最初にドイツに行った1990年頃は、歩道上で色分けされただけのものが主流でした。これは歩行者にとっては大変危険なものですが、それでも私はこれに大変強い印象を受けました。これは最早、ドイツでは過去のものなのですが、霞ヶ関では近年になってこれと同じようなことをやっているのです。市民が声を上げていかないばかりに、日本の歩行者や自転車乗りは大変軽く見られている気がします。
さて、1997年にドイツでは道路交通規則(Strasenverkehrsordnung)が改正され、自転車条項(Fahrradnovelle)が加えられました。

@ 自転車道の規格を道幅、障害となる突起物が無いこと、表示が分かり易くなされていることなどの点に関して定めた。この規格を満たさない自転車道では、自転車走行者に自転車道走行の義務はなく、車道との間で選択できる。
A 一方通行路でも、その標識があれば、自転車は両方向に走ってよい。
B 8歳までの子供が自転車に乗る時は、歩道を走らなくてはならない。10歳までの子供は歩道と自転車道のどちらをも走ってよい。
C バス専用車線を、その標識があれば、自転車は走ってよい。
D 車道上に実線を引いて、自転車専用の車線を設けることができる。また自転車専用の車線を設けるだけの道幅がない場合は、点線を引いて自転車保護車線を設けることができる。そこは自転車にとって危険のない限り、自動車も走行することができる。
E 自転車道路を設定することができる。自転車道路とは市街地・住宅地の一般の道を自転車が優先権を持った道路として定めたものである。そこでは複数の自転車が並走することも許される。自動車の乗り入れは例外的に認められるが、抑制された速度で、自転車の安全に配慮しながら運転しなくてはならない。

ここで私が問題にしたいのが、@の自転車道とAの自転車専用車線および自転車保護車線なのです。私は臆病なものですから、ただ単に道路上に白線で区切られただけの自転車専用車線よりも、歩道と車道の間にあって、構造物で仕切られた自転車道の方が安全に思われるのですが、ハンブルクのADFCの政策担当の人、ハンブルク市の自転車担当官、どなたも自転車専用車線の方が安全であると言うのです。その安全性は既に統計的に証明されており、ハンブルク市では構造物で仕切られたタイプの自転車道を新たに整備することはないと言うのです。
構造物で仕切られていると、走っているときは安全な気がしますが、その分、自動車からは良く認識されません。そのため、交差点に来て、自転車が車道に出た時に衝突することが多いのだそうです。また、建物から歩道を経て車道に出ようとする自動車と衝突することも多いのだそうです。
このようなドイツでの結論がある訳ですが、日本では数年前に道路構造令が改正され、構造物で仕切られたタイプの自転車道をこれから整備していくと言っているのです。
この問題につきましては、ぜひ皆さんにも研究して頂いて、国土交通省に対して言うべきことを言っていくことが必要かと思います。

次に、ドイツでの自転車道整備の実際と今お話しした道路交通規則の改正の関わりについて少しお話させて下さい。
まず、日本は道が狭いから自転車道までは造れないだろう等と考える人がいますが、ヨーロッパだって中世来の町の構造が残っている町が大方で、広々とした道路にゆったりとした自転車道が整っているところばかりではないのです。
今の道路交通規則の改正には、限られた道路空間の中で、どう自転車が走るためのスペースを確保するかという知恵が込められているのです。
この改正の精神は、「分離から共存へ」という言葉で表されると思います。限られた道路空間を歩行者、自転車、クルマなど皆で分け合おうという考えが現れています。
先ほどの自転車道か自転車車線かの問題にも、分離するのではなく並んで走ろうという考えが現れていると思います。
バス専用車線を、自転車にも走らせようというアイディアも、限られた道路を共有するという考えです。
自転車道路は、自転車車線を確保できない狭い道では、自転車を歩道に上げるのではなく、車道を自動車と自転車が分け合いなさい、しかし自動車は決して自転車を脅かしてはいけないよということです。

途中でお話しさせて頂いたハンブルクの自転車道ですが、ここにその計画図があります。
現在、このような大都市内での自転車ルートの制定および建設は、ベルリンやフランクフルトでも進められています。
私はそれらのルートのうちの一つで、既に完成していたところを、実際に、自転車に乗るのではなく、足で歩いてみました。そのルートは上の様々な自転車道のありかた、および公園の中の自転車道など、そして「時速30kmゾーン」の組み合わせでした。自転車ルートは様々な工夫の結晶でした。

最後に自転車乗りにとって安全な道の条件について、お話し致します。
ハンブルクのADFCの人との話しの中で出たことですが、自転車にとっての安全性は、自動車交通の量と質に拠るということです。
自動車と自転車の共存ということからして、自動車走行量の削減、スピードの低減、大型車を減らすこと、これらが自転車走行環境改善の王道であるということです。
今の自動車の量はそのままで、自転車の走行環境が良くなりうると考えるのは幻想であると思います。自動車交通量の削減、減速がもっとも有効な自転車促進策なのです。
そのことからして、北欧やドイツで進めているテンポ30km政策、時速30キロゾーンの普及が自転車走行環境改善にとって効果的であるということです。
またスウェーデンで取り組まれている、交通事故死をゼロにしようとする政策、Vision Zeroなどが、自転車の走行環境改善のためにも王道なのだと思います。
ですから交通安全の運動と自転車推進の運動の連携が、意義あることと思います。
またトラックなどの大型車の走行量を減らすためには、モーダルシフトを推進することが必要でしょう。

次の自転車道の整備に掛かる費用負担についてですが、ドイツには地方交通財源法というものがあり、日本で言えば道路特定財源にあたる鉱油税から充当される資金があり、それを公共交通のためばかりでなく、自転車道の整備にも用いることができます。自転車道の整備を先進的に進めているNRW州もこの資金を利用しています。fairkehr 2004/2

以上で私の拙いお話しを終わりに致したく思います。
ご静聴ありがとうございました。


清水真哉の交通問題

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